平成30年司法試験・労働法 66.21点(30位台) 望月楓太郎

平成30年司法試験・労働法 66.21点(30位台) 望月楓太郎

平成30年司法試験・労働法第1問

第1 設問1
1.前提
  Xによる仮眠時間について賃金請求が認められるには、①労働基準法(以下、法令名「労基」という)上の労働時間に該当し、かつ、②労働契約上の労働時間に該当する必要がある。
2.仮眠時間の労基法上の労働時間該当性
 ⑴ 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下におかれている状態をいう。そして、労基法の労働時間規制(労基32条以下)が、強行法規であることから、労働時間該当性は、実質的に使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価しうるか否かにより判断する。
 そして、仮眠時間が、労働時間に該当するかは、①形式的に労働からの解放が保障されているか、②実質的にみて労働からの解放が保障されているといえる特段の事情があるか、という観点から判断する。
 ⑵ 本件では、Xには突発的事態に応じて労務提供する義務があるし、飲酒・喫煙も禁止されていたうえ、病院施設からの外出が禁止されていたことから時間的・場所的にも拘束されていた(①)。
   また、これまで仮眠時間中に緊急事態が発生して仮眠を中断したことはほとんどなかったとはいえ、緊急事態が発生して突発的業務が生じた過去の事例は存在することから、実質的に労働からの解放が保障されているといえる特段の事情もない(②)。
   なお、Xは、複数回にわたり休憩・仮眠室で缶ビールを飲んでいたことから、実質的に労働からの解放が保障されていたとも思えるが、これはXによる業務上の義務の懈怠にすぎず、実質的に労働からの解放が保障されていたことを基礎づけるものではない。
   以上より、本件における仮眠時間は、労基法上の労働時間に該当する。
3.仮眠時間の労働契約上の労働時間該当性
 ⑴ 仮眠時間が労基法上の労働時間に該当するとしても、労基法上の労働時間と労働契約上の労働時間は異なる概念であるので、労基法上の労働時間に賃金が生ずるには、労働契約上の根拠が必要となる。
   もっとも、労働契約において、労働と賃金は対価関係にあり、労働契約の本質的要素をなす(労働契約法6条、以下法令名「労契」という。)ことから、労基法上の労働時間に該当する場合には、契約上賃金請求権が排除されている等特段の事情のない限り、労働契約上の労働時間に該当し賃金が発生すると解される。
 ⑵ 本件では、Y社は、仮眠時間を就業規則所定の労働時間に、仮眠時間を算入していないが、これに対応するものとして、「泊まり勤務手当」及び突発的業務に対応した場合は実作業時間に対する時間外勤務手当を支給していた。したがって、Y社就業規則は、仮眠時間に対しては泊まり勤務手当及び時間外勤務手当しか支給しない旨を定めていると合理的に解釈されるので、契約上賃金請求権が排除されている特段の事情があるといえる。
 ⑶ もっとも、Y社の就業規則は、仮眠時間を所定労働時間に算入していないため、仮眠時間は、所定外労働時間に該当する。それにもかかわらず、所定外労働時間に対して賃金が支払われないというのは、労基37条1項に「定める基準に達しない」といえる(労基13条前段)。したがって、労基37条・13条に基づき、Xは仮眠時間分の賃金請求をすることができる。
第2 設問2
1.まず、懲戒権の形式的根拠は、就業規則上の懲戒規定に求められるので、懲戒事由該当性が必要となる。
  本件では、Xは、休憩・仮眠室において飲酒・喫煙が禁止されていたにもかかわらず、複数回にわたり休憩・仮眠室で缶ビールを飲むなどしており、また、今回のA病院の緊急事態の際にも、Xは缶ビールを飲んで寝入っていたことにより仮眠用ベッドで寝ていた。これにより、Xは、緊急事態による突発的業務に対応しなかったため、「自己の職責を怠り、誠実に勤務しない等の不適切な行為があった」という(Y社就業規則65条5項)。よって、懲戒事由該当性が認められる。
2.もっとも、懲戒権濫用法理(労契15条)により無効とならないか問題となる。まず、「客観的に合理的な理由」があるか問題となる。
  本件では、Xは、緊急事態による突発的業務に対応しなかったところ、かかる業務は、A病院における警備業務の一環としてなされていることから、Xの業務懈怠は、A病院における患者の生命・身体に重大な影響を及ぼし得る。そして、かかる事態が生ずれば、Y社の信頼も毀損される重大なおそれが認められることから、Y社に対する重大な企業秩序侵害が認められる。また、Y社による14日間の出勤停止処分は、懲戒解雇・諭旨退職と比べると思い処分ではない。そうであれば、Xの非違行為とY社による懲戒処分の均衡は図られているといえるため、客観的に合理的な理由があるといえる。
3.次に、「社会通念上相当」といえるためには、①処分が当該労働者にとって酷でないこと、また、労使間の信義則(労契3条4項)に基づき公正な処分を担保すべく②弁明の機会の付与が必要となる。
  Xは、複数回にわたり禁止されていた休憩・仮眠室での飲酒を複数回繰り返しており、今回のA病院の停電時も禁止された飲酒をしたことにより寝ていたことが原因で職責を怠っていたので、Xの帰責性が大きい。よって、Xに対する当該処分は、酷とはいえない(①充足)。
  また、D課長が、X及びBと個人に面談して、A病院における停電対応について事情聴取していたため、弁明の機会を付与していた(②充足)。
  以上より、懲戒権濫用法理(労契15条)により本件懲戒処分は無効とならず、有効である。

平成30年司法試験・労働法第2問

第1 設問1
1.Cらは、Y社による懲戒処分が不利益取扱い(労働組合法7条1号、以下法令名省略)、支配介入(7条3号)として不当労働行為に該当すると主張することが考えられる。
  不利益取扱いが成立するには、Cらの行為が「正当な行為」である必要がある。また、支配介入が成立するには、人間の意思に基づく行為である以上、支配介入意思が必要である。そして、「正当性」は支配介入意思の中での考慮要素となる。
  そこで、Cらの行為(以下「本件行為」という。)が正当な行為かどうか問題となるところ、本件行為は組合活動である。なぜなら、争議行為とは、ストライキを中心に考えられており、ストライキ及びこれを維持・強化するための付随的行為を言うと解すべきだからである。
  そこで、組合活動の正当性が問題となる。
2.組合活動の正当性
  組合活動に正当性が認められるには、①主体、②目的、③態様の点で正当性が認められることが必要となる。
 ⑴ ①主体の正当性は、原則として組合である必要がある。もっとも、少数者の活動であっても、組合の意に反せず黙示の承諾ありといえる場合には、主体の正当性が認められる。
   本件では、Cらの行為はZ組合として行ったものでない。また、Z組合の委員長Dは、2年間に限定した基本給の10%の削減に応じる態度を示し、組合活動によりY社に抗議することを考えていない。そして、Cらを除く他の出席者からはかかるDを支持する発言が相次いでいた。このような状況においては、Cらの本件行為は、組合の意に反していないとは言えず、組合からの黙示の承諾は認められない。よって、主体の正当性は認められない。
 ⑵ ②目的の正当性は、義務的団交事項のみならず、労働者の相互扶助・相互保護に関する事項にも及ぶ。
   本件では、Cらの本件行為の目的は、Z組合の労働者の賃金を上げることを目的としており、Z組合の組合員の労働条件に関する事項であって、使用者が解決可能な事項であり、義務的団交事項として、目的の正当性は認められる。
 ⑶ ③態様の正当性について、本件行為のようにビラの配布という組合活動の場合には、時間・場所・ビラの内容等を考慮して正当性を判断する。
   たしかに、ビラ配布を行っているのは、勤務時間の開始前の時間であり、就業時間中ではなく、時間の面では問題はない。
   しかし、ビラの内容についてみると、A社に対する批判のみならず第三者であるP社及びその代表Qに対する批判も混じっている。しかも、そうしたビラの全文や抗議活動の写真をウェブに掲載し、誰にでも見られる状態にしており、労使間の関係を超えている。
   よって、態様の正当性は認められない。
3.以上より、Cらの本件行為は「正当な行為」といえないので、これに対してY社が懲戒処分を行ったことは不利益取扱いには該当しない。また、企業秩序侵害のある行為を排除するための行為なので、Y社に支配介入意思もなく、支配介入にも該当しない。
  したがって、Y社による懲戒処分は不当労働行為ではない。
第2 設問2
1.統制権は、組合員に脱退の自由が確保されていること、また労働組合が民主的団体であるから、組合規約に基づいて認められる。そこで、統制事由該当性と、統制権の濫用でないことが必要となる。
2.では、Cらに対する権利の一時停止の統制処分について、統制事由該当性が認められるか。
 ⑴ まず、Cらの本件行為は、組合規約・機関の決定それ自体には違反していないので、組合規約10条1号には該当しない。
 ⑵ 次に、CはZ組合の副委員長であるのにかかわらず、「正当な行為」とはいえない組合活動、すなわち不当な活動を主導したため、組合の統制秩序を乱したといえる。よって、Cらの行為は組合規約10条2号に該当する。
 ⑶ そして、これによりY社とZ組合という労使間の信頼関係が破壊されてしまっている。すなわち、Cらの行為は、今後の「組合の運営、事業の発展を阻害する行為」といえる。よって、組合規約10条3号に該当する。
 ⑷ 以上より、統制事由該当性が認められる。
3.もっとも、統制権の濫用として無効とならないか(民法1条3項)。①組合員の事情、②組合の事情、③手続の相当性、④統制処分の合理性を考慮して、社会観念上著しく妥当性を欠く場合には、統制権の濫用となると解すべきである。
  本件では、Cらには正当性のない組合活動を行ったという帰責性が認められる(①)。そして、そうしたCらの行為はZ組合の意思に反していたし、Z組合には、Cらの行為によって破壊された労使間の信頼関係を回復する必要もある(②)。また、Cらに対する統制処分は組合大会の決議によるので(組合規約12条)、手続の相当性も認められる(③)。統制処分の内容が権利の一時停止であることについては、解任・除名と比べたら重い処分ではない(④)。よって、社会観念上著しく妥当性を欠くとは言えない。
4.以上より、権利の一時停止の統制処分は有効と考えられる。
第3 設問3
1.Y社の提示した労働協約案の内容は、2年間においてZ組合の組合員の基本給が10%削減することとされており、Z組合の組合員にとって労働協約が不利益に変更されていることとなる。
2.そこで、そもそも労働協約を不利益に変更することができるか、有利原則が認められないかが問題となる。
  この点、労働基準法13条、労働契約法12条が「達しない」と定めるのに対し、16条は「基準に違反する」と定めていることから、有利原則は認められず、不利益変更は可能であると解される。
  本件でも、労働協約を不利益に変更することは可能である。
3.では、不利益変更することについての協約締結権限がDに認められるか。
たしかに、労働組合の目的は、組合員の労働条件・地位の向上にあることから、不利益変更の協約締結権限は認められないようにも思える。しかし、中長期的な視点から見て、不利益変更の必要性がある場合もある。そこで、不利益変更の協約締結権限が認められると解される。
  また、Dは、委員長であり、組合を代表して協約を締結する権限を有する(組合規約3条)。
4.もっとも、労働協約の不利益変更の効力が組合員に及ぶか。不利益変更の限界が問題となる。
 ⑴ 労働協約の不利益変更は労使間の合意によるものであるから、労使自治の観点から、原則として、組合員に対して規範的効力が及ぶ(16条)。
   もっとも、①協約締結の経緯、②使用者の経営状態、③協約に定められた基準の全体としての合理性を考慮して、特定又は一部の組合員に対し殊更不利益を与える目的等、労働組合の目的を逸脱している場合には、例外的に規範的効力が及ばないと解すべきである。
 ⑵ 労働組合も民主的団体であることから、組合員の意思をくみとり反映させていく必要があるところ、本件では、Z組合の委員長であるDの考えに対する支持が多かった。また、Z組合としてはCらの行為により破壊された労使間の信頼関係を回復する必要もある(①)。そして、Y社としては業績の低迷が続いており、不利益変更の必要性が高い(②)。また、たしかに、賃金は労働契約の本質的要素であるところ、かかる賃金についての10%という大幅な減額は、労働者に対する重大な不利益である。しかし、賃金の減額期間は2年間と限定されているうえ、また、2年目以降は個々の労働者の成果に応じる形で一時金の中に反映させていくという代償措置がとられているため、労働者に対する不利益の程度は限定的であり、協約の内容としては合理的である(③)。
   以上より、Y社の提示した労働協約案に調印したとしても、それは特定又は一部の組合員に対して殊更不利益を与える目的とは考えられない。
 ⑶ 以上より、Z組合の組合員に対して規範的効力が及ぶ(16条)。

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